262回整形外科リハビリテーション研究会報告

2019.2.16 於:アクションラボオルバースビルディング
            


環指基節骨開放性骨折に腱性マレットフィンガーを合併した一症例

症例は50歳代の男性である。バイク走行中に障害物に接触して転倒し受傷した。当日、他院にてレントゲン撮影後、創部を閉創した。翌日、当院を受診し左環指基節骨開放性骨折、左環指の腱性マレットフィンガーと診断され、観血的治療が施行された。レントゲン画像より本症例の骨折は骨幹部での横骨折であり、遠位骨片は90度背側へ転位していた。Cワイヤーによるクロスピンニング固定が施行された。伸筋腱断裂部は終末腱のやや近位部で橈尺側の断裂に加え、その間に存在する三角靭帯の損傷を認めた。伸筋腱は可及的な腱縫合が実施され、DIP関節は伸展位でワイヤーによる関節固定が施行された。術後の固定肢位は手関節背屈位、環小指MP関節屈曲位、IP関節伸展位で外固定された。運動療法は術翌日より開始した。
運動療法の初期評価時の所見として、安静時と運動時(環指MP、PIP関節の運動時)に術創部周囲にNRS0~1の疼痛を認めた。しびれや異常感覚はなかった。術後3週の手関節ROMに制限はなかった。環指ROMはMP関節の他動屈曲55°、自動屈曲30°、他動伸展0°、自動伸展-8°、PIP関節の他動屈曲45°、自動屈曲40°、他動伸展-10°、自動伸展-25°であった。
検討項目は、現時点で獲得しておきたいROM、DIP関節のピンを抜去した後に考えられる状態、各関節(MP、PIP、DIP)において今後想定される合併症と運動療法のコツの3点であった。
フロアから、本症例の運動療法を行う点でのポイントは、基節骨の骨癒合を最優先に考えて実施することであり、腱性マレットフィンガーの予後については、DIP関節が伸展0°で安定してくれれば妥当であるとの意見が挙がった。最終的には、グリップした際に環指の指尖部が手掌部に着くくらいがゴールではないかということであった。
そのためには、MP関節の可動域練習の際には、基節骨に回旋力を加えないように操作することが重要となる。また、骨転位の方向より骨折部掌側の屈筋腱損傷の可能性が考えられるため、エコーを用いて詳細に評価するとともに、屈筋腱側のモビライゼーションも必要ではないかという指摘があった。PIP関節の屈曲に対しては、Lateral bandの滑走を改善することと、皮下組織の柔軟性の回復が重要になるとの意見が挙がった。
MP・PIP関節は小さいため、浮腫の存在や皮下組織の柔軟性の低下がある状態での無理な関節運動は、容易に関節症性変化を惹起するため、注意深く対応する必要があると指摘された。

(校正者:岡西 尚人)




ZoneⅤ全屈筋腱断裂及び正中・尺骨神経断裂術後の1症例

症例は80歳代男性である。某日、割れた窓ガラスの交換作業中に窓ガラスが前腕腹側に落下して受傷、同日に他院へ救急搬送され神経と腱、血管の縫合術を行った。術後1ヶ月後に退院し、翌日に某病院を受診し理学療法開始となった。今回断裂した組織は橈骨手根屈筋、長掌筋、浅指屈筋(以下、FDS)、尺側手根屈筋、深指屈筋(以下、FDP)、尺骨神経、正中神経、尺骨動脈、正中動脈であり、長掌筋以外は縫合術を行った。ニードは日常生活において使える手にしたいである。
理学療法を開始した時点で装具や外固定はなかった。術創部は前腕遠位腹側において橈骨長軸に対して直交するように認め、長さは約8cmであった。前腕から手指にかけて強い浮腫を認めた。ROMは掌屈55°、背屈8°、回内35°、回外60°であり、手指のROMはMP、PIP、DIP関節全体で強い可動域制限を認めた。術後6週の段階で手指を伸展させた際に縫合腱のGapの有無をエコーにて確認した。手関節軽度掌屈位の手指伸展30°でGap形成を確認した。
理学療法は縫合した腱の修復を最優先とし、術後6週までは各関節の拘縮改善と予防、手内筋の短縮予防、浮腫管理を行った。6週からは手関節背屈や手指屈曲、伸展の自動運動を開始し、12週からは他動可動域訓練を追加した。
術後27週で中間評価を行った。ROMは手関節掌屈65°、背屈35°、回内45°、回外65°であり、Activeの手指可動域には大きな改善はなかった。PassiveではMP関節の屈曲とPIPの伸展に大きく可動域制限を認めた。加えてFDPとFDSの分離運動は不可能であり、手内筋短縮テストは全指陽性であった。経過27週での%TAMでは母指71.7%、示指51.1%、中指38.8%、環指32.0%、小指33.2%であった。感覚検査ではSemmes-weinstein Monofilaments Testを用い、MP関節より近位では正中神経、尺骨神経ともにわずかに感知することは可能であったが、MP関節以遠では感知は不可能であり、痛覚も同様の所見が得られた。
検討項目は「運動療法によってどこまでの機能回復が望めるのか」、「機能回復のためにはどのような運動療法を行うと良いか」とした。
今回の症例はZoneⅤでの腱断裂であり、修復過程を考慮して理学療法を進めた。エコーにて縫合部にGapが生じる角度を確認したが、撮影していたGapと思われるものは縫合糸等による可能性があり、ZoneⅤの損傷かつ術後4週であれば腱の修復もある程度得られているため、もう少し積極的に理学療法を展開しても良かったのではないかという意見を頂いた。加えて本症例は手指に関節拘縮が残存していたため、術後早期に来院し腱の修復過程の最中ではあったが、縫合部にストレスのかからない条件下で可動域訓練を行うという点に配慮することで拘縮を除去しておかなければいけないという意見もあり、関節拘縮が残存していなければ今後の選択肢を広げることが可能であったとご指摘を頂いた。機能回復のためには自主訓練は非常に重要であり、浮腫管理や手指に対する運動を実技も含めてご指導いただいた。
今回の症例では浮腫管理や自主訓練が徹底できていなかったことや、腱の再断裂を意識したことで慎重な理学療法を展開したために関節拘縮が残存してしまう結果となった。改めて自主訓練の必要性や修復時期にあった理学療法を行うことの重要性を再認識した。