263回整形外科リハビリテーション研究会報告

2019.3.16 於:アクションラボオルバースビルディング
            


舟状月状骨解離に対し鏡視下手術が施行された一症例

症例は19歳の男性である。半年前、車で走行中にパトカーに停車するよう止められた。車外に出たところパトカーがサイドブレーキをかけていなかったため前進してきた。そのためヘッドライトに手を置き前進するのを押さえていたが、運転手がブレーキとアクセルを踏み間違えて車に押される形で約1mの溝に転落した。翌日から右手関節痛が出現してきたため、某整形外科クリニックを受診し右手関節捻挫と診断され、手関節固定装具の処方、内服薬および外用薬が処方された。経過観察していたが、疼痛が持続するため受傷から7週間後にMRIを撮影した。MRIでは、関節円板の橈側に一部破綻や手関節背側の軟部腫脹、有頭骨遠位背側にわずかな骨髄浮腫を認めた。MRIの結果を踏まえ手専門の病院へ紹介受診され、理学所見より舟状月状骨(以下:SL)間の不安定性があるが、画像上は不安定性が認められないためSL間の不全損傷の可能性があるとのことであった。手関節固定装具を継続して行い、症状が軽快しなかったため受傷から約5か月後に手関節鏡視下手術が施行された。術中所見は、SL靭帯の背側が断裂しておりGeissler分類StageⅢであった。そのためSL靭帯の縫合と背側手根骨間靭帯の半切を移行し、背側からSL靭帯上を覆うように補強した。その後、SLを橈側から2本のC-wireで仮固定を行い手術終了となった。術後4週間はギプス固定を行い、ギプス除去後は装具に変更とのことであった。装具に変更後は、入浴とリハビリ中は外してもよいが自動運動によるROM訓練を行うことや手をついて荷重や重い物を持つことは禁忌との指示があった。術後4週の理学所見は、手関節背側と尺側の術創部、橈側のワイヤー突出部に圧痛を認めた。ROM(左/右)は、前腕回外95°/75°、回内85°/70°、手関節背屈70°/20°、掌屈80°/30°、橈屈25°/20°、尺屈50°/20°であった。疼痛は、前腕回内外時に尺側の術創部、手関節掌背屈時に背側の術創部、尺屈時に橈側のワイヤー突出部に認めた。運動療法は、術創部の滑走性改善、背側の関節包外結合組織の柔軟性改善、手外筋腱の近位および遠位滑走の改善を目的に実施した。術後5週目に主治医の診察があったため、現在の状態とSL間にストレスが加わらないように徒手的に固定した状態での遠位および近位橈尺関節、手根中央(以下:MC)関節、橈骨手根(以下:RC)関節のROM訓練を他動においても実施してよいかとの文章を作成し確認していただいた。主治医からは、基本的には現在行っている運動療法を継続していただければ幸いだが、靭帯縫合部に負荷がかからないような状況下でROM訓練を進めても問題ないとのことであった。術後5週目のROMは、回外90°、回内70°、背屈40°、掌屈30°、橈屈20°、尺屈20°であった、またMC関節のROM(左/右)も測定し、背屈25°/15°、掌屈25°/15°と制限を認めた。運動療法は、橈尺関節のROM訓練、MC関節のROM訓練、RC関節のROM訓練を上記の内容に追加して行なった。RC関節のROM訓練の際、不意にワイヤー突出部の所で鋭い疼痛が出現することがあったため、短母指伸筋腱、長母指外転筋腱を弛緩位となるよう母指を他動的に掌橈側外転位とし実施した。術後6週目のROMは、回外90°、回内80°、背屈55°、掌屈40°、橈屈20°、尺屈20°、MC関節背屈20°、MC関節掌屈20°であった。疼痛は、前腕回内時に遠位橈尺関節背側、手関節掌背屈時に背側の術創部、尺屈時に橈側のワイヤー突出部に認めた
検討項目は、術後8週目にC-wireを抜去する予定だが、手関節のROMは抜去するまでに健側と比較しどの程度改善しておくとよいのかという点とRC関節のROM訓練の方法や工夫についての2点であった。
フロアーからは、C-wireの固定力が強固なものではないため、RC関節のROM訓練を実施するにはSL間へのストレスが加わる可能性が高いとの指摘があった。そのため術創部の滑走性や橈尺関節とMC関節のROM、手内筋および手外筋の伸張性獲得を優先し、C-wireを抜去してからRC関節のROMを積極的に獲得していくという意見であった。
今回の検討より、術後のリハビリを行う際、手術の特性や関節の機能および運動学を十分に把握することで積極的に治療する部位、しない部位が明確になる必要性を再認識した症例であった。

(校正者:岡西 尚人)




橈骨背側に骨片を認める橈骨遠位端骨折術後の一症例

症例は60歳代の男性である。職業は寺院の住職で右利きである。某日、境内の鐘を鳴らす準備中に階段を踏み外して転倒し右手をつき受傷した。その後当院を受診し、4日後に観血的整復固定術を行った。術後1週目より理学療法および評価を行った。
受傷時のX-P画像より関節内の骨折および背側骨幹端部の多骨片骨折を認めAO OTAの分類の2R3C3.2であった。手術は掌側ロッキングプレートを使用し背側骨片の固定は行われなかった。X-P画像より Radial length 11.7mm、Radial tilt 19.5°、Volar tilt 12.9°であった。初期評価にてROMは前腕の回内50°回外45°手関節の背屈30°掌屈40°手根中央関節の背屈15°掌屈10°であった。圧痛所見は橈骨背側骨片周囲、術創部周囲、長母指伸筋、長・短橈側手根伸筋、方形回内筋、遠位橈尺関節に認めた。手指および手関節周辺には浮腫を認め、術創部の柔軟性は低下していた。その他の所見として手関節の背屈に加え母指、示指、中指の伸展にて術創部周辺に疼痛が認められた。また手関節掌屈に加え母指、示指、中指屈曲では前腕背側に疼痛を認めた。
また、背側骨片の評価を行う目的で超音波画像診断装置(US)によりリスター結節の橈側に位置する骨片と長短橈側手根伸筋の長軸像で観察を行った。他動での掌背屈運動による骨折部の動揺は認められなかった。また骨片と長・短橈側手根伸筋腱周辺をパワードップラにて観察すると血流増生像が認められた。
現状で足りない評価項目、術後1週目より介入する際の注意点や運動療法の進め方について、橈骨の背側骨片を考慮してどのような運動療法を展開すればよいかの3点について検討がなされた。
フロアからの意見として、遅発性の伸筋腱断裂の原因に背側骨片の形状や仮骨の過剰形成、スクリューとの干渉が挙げられるため橈骨背側の形状をUSにて観察すると良いとの意見が上がった。本症例の場合、長・短橈側手根伸筋が骨片の表層を走行するがこれらの腱が遅発性の腱断裂を起こすという報告はあまり存在しない。腱断裂で比較的報告数の多い長母指伸筋腱をUSで確認し長母指伸筋腱の滑走時に干渉しうる骨片の有無を確認すると良いとの意見が挙がった。
術後1週目より介入する際の注意点として骨折部が安定するまでは低負荷で行い他関節の可動域改善や軟部組織の柔軟性の維持を図ることが重要との意見が挙がった。治癒過程やX-P画像、USにより骨折部の評価を行い、骨癒合が得られてから橈骨手根関節へ介入することで骨折部にかかるストレスを最小限に抑えることが重要であるとの意見が挙がった。
橈骨の背側骨片に対しても同様でやはり骨癒合を最優先すべきとの意見が挙がった。術後早期の介入は癒着を予防することが重要となるため浮腫管理や筋腱の滑走障害の予防が必要であるとの意見が挙がった。早期の運動療法は各組織の治癒過程を考慮し負荷量や治療部位を定めて、進めていくことの重要性を再確認できる症例であった。




ばね指に対する腱鞘切開術後の癒着に対して腱剥離術が行われた一症例

症例は50歳代男性である。ばね指に対して腱鞘切開術を他院にて施行されたが、症状が改善せず当院を受診された。当院で理学療法開始するも症状の改善は認められず、環指屈筋腱剥離術と関節授動術を施行、翌日より理学療法介入開始した。
術中所見として、A1 pulleyよりやや近位レベルにて浅指屈筋腱と深指屈筋腱が癒着していたため、腱剥離を施行。さらにPIP関節に対して関節授動術が施行された。
術後1週の理学所見として、疼痛を左環指total flexion時にPIP関節背側部、左環指Total extension時に術創部に認めた。浮腫は術創部、PIP関節、手背部に認めたが、FDP、FDSの分離運動は可能であった。関節可動域は環指PIP関節の屈曲が自動85°,他動95°、伸展は自動5°、他動10°であった。DIP関節の屈曲は自動35°、他動80°、伸展は自動-10°、他動0°であった。この時期の理学療法は、疼痛の増悪や腱再癒着の防止を目的に炎症管理を徹底し、腱滑走性の維持を図った。
術後5週の理学所見では、疼痛を左環指total flexion時に中節骨背側に認めた。圧痛所見は第3、第4虫様筋に認めた。Intrinsic muscle tightnessは第3,第4虫様筋、第4背側骨間筋、第3掌側骨間筋に認めた。関節可動域は環指DIP関節の屈曲は自動35°、他動85°、伸展は自動-10°、他動0°であった。エコーによる屈筋腱の動態観察ではFDS、FDPの滑走性は良好であると判断した。
検討項目は、①現在の病態から不足している評価、②今後ばね指の再発に必要なこと、③癒着剥離後の症例に効果的な運動療法の3点であった。
フロアから、本症例はintrinsic plus positionは可能であるが、intrinsic minus positionが不可能であることから、屈筋腱の近位滑走性低下が問題点として挙げられた。
まず、①現在の病態から不足している評価として、DIP関節より近位の手関節やMP関節、PIP関節の肢位を変えることで、DIP関節の屈曲lagが変化するのかを確認し、どこで滑走性が低下しているかを明確にする必要があった。また、エコー評価ではプローブを中手骨に対して斜めに当てることで、より深部や腱間の滑走性も観察することが可能となると意見があった。さらに、エコー観察が可能な範囲でのFull gripや他動屈曲時のエコーによる屈筋腱の動態も評価する必要があるとの意見があった。
次に、②今後のばね指の再発に必要なことについて、本症例は腱鞘切開を施行されていることから、再発にリスクは少なく、他指の罹患を防ぐためにもADL指導に工夫することも再発予防の一助になることが考えられた。
最後に、③癒着剥離後の症例に効果的な運動療法として、最も重要なことは再癒着の予防であり、早期よりFDSとFDP間の最大遠位滑走と最大近位滑走の維持を図ることが重要となる。そこで、手関節最大背屈位、手指最大伸展位から手関節最大掌屈位、手指最大屈曲位の運動を術後早期より実施し、十分な屈筋腱間の滑走、筋のアンプリチュードとエクスカーションの獲得について助言された。また、エコー所見にて、屈筋腱より深層の手内在筋に硬さを認めるため、屈筋腱の近位滑走獲得に向けて手内在筋の柔軟性改善も同時に必要であると考えられた。

(校正者:橋本 貴幸)