264回整形外科リハビリテーション研究会報告

2019.5.18 於:AP名古屋
            


術後に股関節内旋位を呈した大腿骨転子部粉砕骨折の一症例

症例は90代女性で、受傷前ADLは自立しており、移動は歩行器を使用していた。HDS-Rは19点であった。特別養護老人ホームに入所中、更衣の際に転倒して受傷した。左大腿骨転子部粉砕骨折と診断され、受傷後2日目にlong γ-nailによる観血的骨接合術が施行された。術後は全荷重が許可された。背臥位にて見かけ上は左股関節が内旋位を呈しており、主に画像所見にて①荷重について、②内旋変形の要因について、③術後運動療法の注意点についての3点を検討していただいた。
①については、主治医が全荷重できるとの判断でこの術式を選択していることから、疼痛部位や程度を詳細に診ながら少しずつ荷重を進めていいのではないか。また画像所見から、正面像では解剖型、側面像では髄外型であるため、疼痛に注意して荷重をして良いだろうとの意見もいただいた。逆に小転子や転子下まで骨折線が及んでいるため、荷重を遅らせるか、foot touchから始めるのがいいのではないかという意見もいただいた。
②については、術直後から内旋位を認めたこと、左右の回旋可動域の合計が同じであることから骨幹部側が内旋位で固定されてしまったのではないかという意見をいただいた。他の鑑別方法としてCTを股関節から大腿骨遠位部まで撮影し、前捻角を確認すること。触診では、膝蓋骨を正面に向けた際に、大転子の位置の左右差を確認することで、ある程度の変形は判断できるとの意見をいただいた。
③については、骨折部への荷重ストレスによる疼痛であれば、軟部組織への伸張や弛緩を加えても疼痛が変化せず、荷重量に応じて骨折部に一致した疼痛が増減するなどの所見が得られる。加えて、画像で転位や変形を確認し、異常所見があれば主治医と協議し荷重を遅らせるなどの対応が必要。また小転子に骨折線が及んでいるので、転位を予防するために股関節の屈曲やSLRは2〜3週は行わないほうがいいだろうとの意見をいただいた。骨幹部側が内旋しているということは、粗線内側唇が外側に移動し、内転筋群の緊張が高まることで外転制限を認めることや、大腿四頭筋の筋出力の低下が予測される。早期から内転筋群や大腿四頭筋に対するアプローチが重要との意見もいただいた。
今回は画像所見を中心に検討していただいたが、受傷時、術後の画像から予測できることは非常に多くあり、それとともに理学所見や触診を丁寧に行うことで、病態への解釈が深まり評価・治療につながることを再確認した。

(校正者:猪田 茂生)




人工股関節全置換術と転子下短縮骨切り術を併用した症例~靴下着脱に着目して~

症例は70歳代女性である。診断名は左変形性股関節症である。既往歴は左先天性股関節脱臼があり、10歳代時にSchanz骨切り術があった。現病歴は、他院で左人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty: 以下、THA)、転子下短縮骨切り術した。術後1週に車椅子へ座った際に脱臼骨折し、プレート固定術した。術後14週に退院し当院紹介された。
手術記録は、THA、転子下短縮骨切り術は前外側アプローチだった。小、中殿筋を剥離し、外旋筋群を切離した。カップ設置角は外方開角41.7°、前方開角14.9°だった。ステム前捻角は11.9°だった。小転子下で骨切りし3.5㎝短縮した。腸脛靭帯を切開し、外側広筋と中間広筋を切離し25㎝のプレートを挿入した。
術前の主訴は、歩行時の左股関節痛だった。関節可動域は股関節屈曲80°、伸展0°、外転30°、内転25°、外旋30°、内旋30°、膝関節屈曲155°だった。
術後、歩行時の左股関節痛は消失した。術後の主訴は術前できていた長坐位での靴下着脱が困難となった。関節可動域は、股関節屈曲60°、伸展0°、外転5°、内転0°、外旋0°、内旋0°、膝関節屈曲100°だった。筋力はMMT股関節屈曲2、外転2だった。術後8ヶ月での関節可動域は、股関節屈曲60°、伸展0°、外転5°、内転3°、外旋5°、内旋10°、膝関節屈曲130°だった。筋力はMMT股関節屈曲3、外転3だった。
術前後のX線像より骨模型を用いてシミュレーションし、股関節周囲筋の距離を測定した。脚延長は6.5㎝だった。術後に生じた筋の伸張率は小殿筋207%、中殿筋206%、梨状筋126%、腸骨筋163%だった。長坐位での靴下着脱に必要な股関節可動域は屈曲80°、外転40°、外旋23°である。必要な筋の伸張率は小殿筋240%、中殿筋188%、梨状筋238%、腸骨筋109%だった。
検討項目として2点挙げた。一つ目は「長坐位での靴下着脱の目標設定は適切か」である。これに対して関節可動域の拡大は適切でないという意見をいただいた。3回の手術や脱臼骨折したことから軟部組織バランスは破綻している。関節可動域の拡大は再脱臼のリスクとなる。外転筋力がMMT3であり十分とは言えず、瘢痕組織による静的安定で歩行可能になっている可能性がある。可動域拡大よりも筋力強化を優先すべきと指導を受けた。
二つ目は「股関節可動域は今後リハビリテーションを継続していくことで拡大可能か」である。脚延長による筋の過緊張と3回の手術による線維化で可動域拡大は容易ではない。類似症例を2、3年かけて改善した経験をもつ先生もいらっしゃった。関節可動域エクササイズをする場合はカップの外方開角、前方開角、ステム前捻角を考慮する必要があると意見いただいた。
今回、シミュレーションによって、一部の筋はかなり伸張されていた。関節可動域拡大は容易ではないことが予想できた。術後に脱臼骨折しており軟部組織バランスは破綻している。関節可動域の拡大は再脱臼のリスクとなる。長坐位での靴下着脱は目標設定として適切でなかった。

(校正者:八木 茂典)