265回整形外科リハビリテーション研究会報告

2019.7.20 於:AP名古屋
            


右人工膝関節全置換術後、屈曲拘縮に対し非観血的授動術を施行した症例

症例は70歳代男性である。Kellgren-Lawrence分類Grade3の変形性膝関節症に対し、他院にて右人工膝関節全置換術(CR型)を施行された。術前可動域は膝関節伸展-15°屈曲120°であったが、術後伸展-45°と高度の屈曲拘縮を呈したため、術後29日に非観血的授動術を施行され伸展-10°屈曲110°を獲得した。術後39日に自宅退院されたが、13日後の外来診察にて伸展-30°と伸展可動域制限が生じており、術後78日に外来リハビリ目的に当院を紹介受診された。
初回リハビリ時の可動域は伸展-30°屈曲95°で、創部や膝蓋骨上方・下方組織全て著明な滑走障害が生じており、extension lagも認めた。筋の圧痛は認めなかった。伸展可動域が他関節肢位に依存しないこと、伸展最終域で半膜様筋の筋腹圧迫にて伸展域が減少したことから、半膜様筋を中心に伸展域の獲得とextension lagの消失を目指した。現在術後117日では、伸展-13°〜-15°獲得しており、膝関節前面の組織の治療へと方針を変更しextension lag消失に重点をおいた。
検討項目は①追加すべき評価、治療について ②リハビリ頻度を減らしても伸展可動域のreboundを防ぐためにどのような自主トレが良いか の2点とした。
①について、コンポーネント設置位置や温存しているPCLの柔軟性評価、エコーを用いた膝窩部深層の癒着評価が必要とご意見を頂いた。また、術後のアライメント変化に伴う軟部組織の張力変化として大腿筋膜の解剖をご指導いただいた。大腿筋膜は殿部〜Gerdy結節まで大腿のほぼ全周を覆うように存在しており、柔軟性が低下すると膝関節屈曲・伸展双方の制限因子となる。また、股関節回旋可動域の合計が60°以上あると術前の膝関節可動域を獲得できるとの報告や、股関節外旋位では膝関節も屈曲しやすいため、股関節への加療も行うべきとのご意見を頂いた。治療方針としては、まだ非観血的授動術後の可動域を獲得していないため、伸展域獲得のための治療を継続すべきとの意見が多数だった。
②について、非術側へ1.5cm以内の補高を行い歩行時の膝伸展を引き出す方法、股関節可動域や筋力向上による下肢のマルアライメント修正をご指摘いただいた。自主トレに過度の期待をせず、ADL動作からトレーニング効果が得られる方法を提示することの重要性を再認識した。
人工膝関節全置換術後症例は、日常診療で比較的多く遭遇する疾患の一つである。しかし、手術の特性やそれに伴う軟部組織の変化について、基本に立ち返って学び、丁寧に評価・考察することの重要性を学んだ。

(校正者:松本 優)




膝蓋骨開放骨折後に膝前面部痛が残存している1症例

症例は16歳の男性である。部活動は硬式野球部に所属している。約1年前に自転車から転倒し、左膝蓋骨の開放骨折を受傷した。某総合病院にて開放創を縫合し、運動療法を行っていたが、疼痛の改善が得られなかったため、某整形外科クリニックを受診し運動療法が開始となった。主訴は、運動時の膝前面部痛である。Dr.情報より、疼痛部位にInjectionを施行工したところ疼痛が軽減したとのことであった。レントゲン画像は、特異的な所見がなかった。疼痛の再現は、膝伸展の抵抗運動と徒手による膝蓋骨の下制、階段の昇降動作、スクワット動作で膝蓋靭帯内側に認めた。膝蓋骨の下制と大腿四頭筋の抑制を目的としたテーピングを実施しスクワット動作を確認したところ、疼痛に変化がなかった。次に視診より、膝蓋骨尖周囲に開放創の創部を認め、また膝蓋骨のアライメントは膝の屈伸角度を変化させても明らかな左右差を認めなかった。関節可動域(右/左)は、膝関節の伸展が0°/0°、屈曲が142°/142°であり、足関節の背屈が膝伸展位で12°/8°、膝屈曲位で25°/20°、底屈が60°/60°であった。圧痛は、膝蓋靭帯の内側に認めた。MMT(右/左)は、膝関節の伸展が5/4、股関節の外転が4/4レベルであった。整形外科的テストは、Ely testが陽性、Mc Murray test , Jasonの誘発テストが陰性であった。エコーのColor Doppler法より、膝蓋靭帯内側部に著明な血流増生像を認めた。また膝蓋下脂肪体の動態評価では、特異的な所見がなかった。現在の運動療法は、膝蓋下脂肪体の柔軟性改善、膝蓋靭帯と脂肪体との滑走の改善、大腿四頭筋のストレッチングを実施している。
検討項目は「疼痛の原因として膝蓋靭帯と膝蓋下脂肪体のどちらが考えられるか」、「所見・治療として追加すべきものがあるか」の2点であった。
疼痛は、膝蓋靭帯に圧痛を認めることや、エコーより膝蓋靭帯の血流増勢像や肥厚が生じていることから、膝蓋靭帯由来の可能性が高いとした意見が多かった。またエコーより、膝蓋靭帯周囲に瘢痕組織が存在し、瘢痕組織との癒着もしくは癒着部位周囲への剪断ストレスが増大し疼痛が出現しているのではないかとの意見も挙げられた。そのため治療としては、癒着を剥離する操作も必要であるのではとの意見であった。また疼痛が遷延していることから、慢性的にストレスが加わっている原因を探求する必要があり、膝関節以外の評価をするべきという意見が多く挙げられた。その中で、体幹や股関節、足関節の筋力評価、フットプリント、動的な評価においてはアライメントを変えることでの疼痛の変化など、テーピングを用いて評価してはとの意見が挙げられた。
今回の症例を通し、エコーによる病態解釈の不十分さと、疼痛が遷延している原因として患部外にも着目し評価していくことの必要性を再認識した。

(校正者:山本 紘之)