266回整形外科リハビリテーション研究会報告

2019.8.17 於:AP名古屋
            


60歳代女性 THA術後に生じた膝関節内側部痛

約5年前から左股関節痛を認め、左変形性股関節症と診断された。2カ所のクリニックでの保存的加療にて改善がなく、A病院にて後方アプローチによる人工股関節全置換術が施行された。術後は約1ヵ月間の入院にて独歩が可能となり、退院後も週1回の外来通院理学療法を継続した。術後約7ヵ月後よりB病院にて、跛行および膝内側部痛の改善を目的に週2回の外来理学療法を開始した。術前の詳細な情報はなく、独歩が可能であった疼痛性跛行が著明で、階段昇降は2足1段で手すりが必要であったとのことである。手術は後側方アプローチにて行われ、短外旋筋群と関節包は縫合し、術後に易脱臼性は認められなかった。B病院の初診時、杖なし歩行は可能であったが、デュシェンヌ様跛行が著明であった。左立脚期に上体が左へ大きく傾き、それと同期して左膝関節内側部痛を訴えていた。可動域(右/左)は、股関節 屈曲110°/95°、伸展15/-5°、外転45°/35°、内転20°/-10°(内外転は屈曲5°にて計測)、膝関節 屈曲155°/150°、伸展0°/10°であった。徒手筋力テストMMT(右/左)は、股関節 屈曲5/4、外転5/4-、伸展5/4、膝関節 伸展5/4、屈曲5/4であった。これまでの情報から膝内側部痛の原因として考えられる病態と発生機序を挙げ、必要な検査・測定項目について検討した。
フロアより、60歳代であること、後方アプローチでのTHA術後に生じていること、デュシェンヌ様跛行で膝も過伸展位での保持であること、非外傷性の膝関節内側部痛であることなどから、変形性膝関節症に起因する関節内外の炎症や拘縮の疼痛、鵞足炎による疼痛、腰での神経根や股関節~大腿内側での閉鎖神経・伏在神経に由来する疼痛等が可能性として考えられるとの意見が出された。安静時痛、荷重時痛、運動時痛、圧痛、Tinel様徴候、筋力低下・感覚障害等の有無や部位、条件の確認をして推察する必要があると考えられた。意見集約の後、提示者より、推察内容と実際に行った運動療法が紹介された。デュシェンヌ様跛行に加え、膝過伸展位保持となっていたことから薄筋が伸張位で収縮されることを求められる肢位になっていたため、鵞足炎が疑われた。薄筋の圧痛、起始・停止を離しても近づけても緊張を認め、伸張位での付着部痛が出現したことから、薄筋由来の鵞足炎であると推察した。骨盤の同側への傾斜角度の減少、膝過伸展の解除をするようにわずかな徒手操作を加えると膝関節内側部痛が軽減するため、薄筋由来の鵞足炎が荷重時痛の原因であると確認した。デュシェンヌ様跛行の原因は、筋力・バランスを介助しても軽度内転位での荷重位が困難であることから、股関節内転制限によるものと考えられた。内転制限の制限因子は、抵抗感の強いend feelであること、制限と同時に緊張すること、伸展位では内転角度が減少すること、徒手的伸張操作を加えながら内転すると角度が減少すること等から小殿筋前方線維の短縮であると考えられた。薄筋付着部の局所安静を図るため、付着部を保護した方法での薄筋のストレッチング、小殿筋のストレッチング、立脚中期における股関節軽度内転位・膝関節伸展0°(過伸展しない)での保持練習などを行い、膝関節内側部痛の消失に至った。動作困難の原因となる機能不全・症状を推察し、それらの責任組織・病態・要因を、医学的情報より予測し、複数の所見の比較・統合により推察することが問題の原因に合った最適な運動療法を行う上で重要であると再確認できた症例であった。

(校正者:熊谷 匡晃)