267回整形外科リハビリテーション研究会報告

2019.10.19 於:国際医学技術専門学校
            


交通事故後に踵部痛が残存している一症例

症例は24歳の男性である。3ヵ月前、T字路を原付バイクで停車中、左側から右折してきたワゴン車が追突し受傷した。某総合病院へ救急搬送され、左脳挫傷、外傷性くも膜下出血、左急性硬膜下血腫、右鎖骨近位部骨折、右肩甲骨骨折、左踵骨骨挫傷と診断され、いずれも保存的加療であった。踵骨の単純X線画像より、特異的所見はなかった。T2脂肪抑制のMRIより、踵部脂肪体と踵骨底面に高輝度像を認めた。受傷から3週間後にリハビリ目的で転院となり、運動器リハビリの開始とアーチサポートが処方された。受傷から12週間後に某整形外科クリニックを紹介受診し、運動器リハビリが開始となった。主訴は、荷重時の左踵部痛(VAS40mm)である。圧痛は、踵部脂肪体に認め、脂肪体を内外側から寄せた状態では軽減した。踵部の腫脹・熱感・発赤がなく、感覚異常も認めなかった。エコーにて踵部脂肪体を描出し、パワードプラ法では特異的所見がなかった。プローブの圧迫にて、健側に比べ患側では踵骨の表層への動きがやや乏しかった。運動療法は、踵部脂肪体の柔軟性改善を実施した。運動療法直後のエコーでは、プローブの圧迫にて踵骨の表層への動きが改善していたが、荷重時のVASが30mmであった。次に踵部脂肪体を保護する目的でテーピングを実施したところ、VASが10mmとなった。
検討項目として、踵部脂肪体は柔軟性改善の治療を実施するべきか保護するべきかという点と保護する場合はどのように意識して行うのかという点と受傷から3ヵ月経過し疼痛が遷延している要因についての3点であった。
受傷時にワゴン車が右側から追突してきたことが予測され、その際左側へ倒れようとしたのを左足で踏ん張った際に踵部に軸圧と剪断力が生じ踵骨骨挫傷と踵部脂肪体の損傷が生じたと考えられる。受傷から3ヵ月経過しているが、骨の疼痛の有無を再評価する必要性の指摘があった。具体的には、夜間痛の有無、踵骨の叩打痛、踵部脂肪体を避けての踵骨の圧痛、エコーにて骨を観察するとの意見が挙げられた。次に踵部脂肪体のエコーより、MicrochamberとMacrochamberの境界が健側では高エコーとして描出されているが患側では低エコーとして描出されている。健側のMacrochamber内では、隔壁により高エコー領域が描出されるが、患側では全体的に低エコー領域として観察され、また圧迫時に内外側への動きが過剰であるとの見解であった。そのため踵部脂肪体は、損傷されていることが疑われるため保護していくべきではないかとの意見が多かった。具体的には、荷重時にMacrochamberが内外測へ移動する動きを制動するために、踵部脂肪体の内外側を覆うテーピングのみ貼付する。足底面側のテーピングを貼付することで、表層からの圧が上昇し疼痛が強くなる可能性があるので検討が必要とのことであった。また今後仕事復帰する場合は、踵部脂肪体を中央に集めるインソールも視野に検討していく必要性の指摘があった。
理学・画像所見の診方によって本来修復を図るべき組織を、徒手操作にて修復を阻害する可能性がある。そのため治療方針の決定には、受傷外力による損傷の強さや理学・画像所見を踏まえ十分に鑑別していく必要性を再認識できた症例であった。

(校正者:岡西 尚人)




足関節開放性脱臼粉砕骨折術後の足関節背屈制限の原因として長母趾屈筋の滑走障害が疑われた1症例

症例は50歳代女性である。自家用車運転中に道路わきの岩に衝突して受傷した。救急搬送され、右足関節開放性脱臼粉砕骨折、右鎖骨骨折、右多発肋骨骨折、胸骨骨折、C4・L2椎体骨折と診断されて入院となった。単純X線像および3D-CT像にて、内果での縦割れ、外果での横骨折、脛骨天蓋近位の粉砕骨折、後果骨折を認めた。脛骨・腓骨の骨幹部に対して、骨折部より遠位が内反した状態であった。外果近位に開放創を認めた。感染リスクがあり、右足骨折に対する観血的骨接合術は、受傷10日後に施行された。外果骨折および内果・脛骨遠位端骨折に対してそれぞれプレートによる内固定を行った。術後のアライメントは良好であった。膝関節遠位から足趾まで足関節背屈-10°にてオルソグラス固定となり、ベッドサイドでの理学療法を開始した。手術2週間後に離床を開始し、介助にて車椅子に乗車した。左上下肢での立位練習が開始となり、オルソグラス固定除去して、足関節可動域運動も開始となった。開始時の可動域は、背屈-10°、底屈25°であった。すでに治療が終了している症例であり、先に推察内容を示し、そのような推察をするには、どのような所見が必要であるか?について、所見の不足がなかったどうかも含めて検討した。推察内容は、「受傷、手術侵襲後の瘢痕形成、炎症性浮腫によるコラーゲン堆積により、長母趾屈筋が足関節近位から下腿近位1/3レベル付近にて脛骨後面と癒着し、滑走障害を起こしている。Kager脂肪体の長母指屈筋腱パートの機能的変形障害を伴っており、この長母趾屈筋の滑走障害により、距骨が前方へ偏位する力を受けた状態で背屈することでObligate translationによる前方impingementを起こしている。」であり、それに対して、①Kager脂肪体の長母趾屈筋腱パートの柔軟性改善、②脛骨に対する長母趾屈筋の癒着剥離、③長母趾屈筋の近位収縮距離と遠位伸張距離の改善、④正常な運動軌跡での背屈操作、⑤最終域までの自動背屈運動等を実施した。フロアより、1)骨折の状態から足関節前方部分の損傷の可能性もあり、背屈時に距骨の前方偏位を徒手にて抑える操作を加えると後方の伸張痛に変化するかどうかを確認すること、2)足関節背屈位での母趾伸展角度が少ないこと、3)長母指屈筋が伸張位から短縮位までしっかりと収縮できることなどを確認すべきであるとの意見が出た。その後、症例提示者より、実際に揃えた所見について発表があった。受傷時の単純X線像および3D-CT像より、距骨と内果・外果・天蓋との位置関係は比較的保たれており、三角靭帯や外側側副靭帯を含め、足関節周辺の靭帯や関節包の損傷は比較的少ないと予想された。足関節近位部から下腿遠位1/3付近の粉砕骨折があり、この部位での軟部組織の損傷が強く、手術までに10日間、術後2週間の不動期間があったことから、周辺の癒着が疑われた。しかし、高エネルギー外傷であったことから、十分な修復が進んでおらず、損傷部位の疼痛と筋攣縮による制限である可能性もあり、現在の可動域の制限因子が、どこの組織の、どのような病態によるものかを所見を揃えて鑑別する必要があった。(1)抵抗感なく著明な痛みと緊張で制限されていた。 (2)足関節前方部にone pointで示す鋭い疼痛が認められた。(3)距骨滑車がmortiseをくぐり抜けず前方へ偏位していたため、前足部は過剰に背屈方向へ偏位していた。(4)正常な運動軌跡となるように距骨を後方へ誘導しながら背屈すると、前方部痛は軽減し、背屈角度は減少、抵抗感の増加による制限へと変化した。(5)制限と同時に長母趾屈筋に沿って内果後方から足関節近位中央が強く緊張し、下腿遠位1/3より近位部は緊張の変化を認めなかった。(6)圧痛は、長母趾屈筋、ヒラメ筋のいずれも下腿遠位1/3付近に認められた。(7)起始・停止近づけると長母趾屈筋、ヒラメ筋は弛緩した。(8)骨折部周辺から足関節遠位の腫脹・熱感・安静時痛、骨折部より遠位での炎症性浮腫を認めた。(9)朝は動かしづらく、日中は痛みが軽減していた。(10)背屈角度を減らすと、その分だけ母趾MP関節伸展角度が増加した。(11)距骨下関節回外角度を増やすと足関節背屈角度が増加した。(12)足関節近位レベルにて脛骨後面付近での長母趾屈筋に対して徒手的に伸張操作を加えた状態で背屈すると、加えない場合と比べて背屈角度が減少した。(13)術創部皮膚への徒手的な伸張操作にて角度変化は認めなかった。(14)足関節-10°での母趾MP伸展可動域は、患側0°に対して、健側45°であった。(15)Kager脂肪体の各パートでの横方向への移動量は患側が少なく、特に長母趾屈筋腱パートでの移動量が少なかった。以上のことから提示した推察内容に至ったことが説明された。指導者より、長母趾屈筋のエコー動態を示しながら、関節後面からすぐ近位までの滑走障害は起こりうるが、下腿遠位1/3レベルでは、停止腱の位置を保持するためのアンカー固定があるとされており、筋が近位・遠位にはあまり滑走せずに収縮にて外側に引っ張られ、伸張にて内側に引っ張られるとの動態を説明された。また、脂肪体そのものが可動域を強く制限するのかどうか疑問であるとの見解を示された。可動域制限が滑走障害によるものであるかどうかを確認し、さらに滑走障害の部位を推察するためには、病態と所見の関係を理解し、複数の所見を揃えて判断することが重要であることを再確認できた。また、的確に鑑別するためには、長軸方向だけでなく、短軸方向への滑走や部位による滑走距離の違いなど各組織の動態を理解した上で評価を行うことが重要であると知ることができた症例であった。今後、超音波エコーによる各組織の動態の特徴についての研究にも注目したい。

(校正者:岡西 尚人)