267回整形外科リハビリテーション研究会報告

2019.11.16 於:IMY 6F
            


運動療法と日常生活指導によるアプローチを試みた外傷性頚部症候群の1症例

40歳代女性。特記すべき既往はなし。某日、バレーボール試合中に他者との激しい衝突後に転倒して受傷した。頚部痛により体動が困難となり、救急搬送された。左母指のしびれを認め、画像での外傷性変化が認められなかった。外傷性頚部症候群(ケベック分類gradeⅡ~Ⅲ)と診断されて入院となった。受傷後6日目に離床を開始し、11日目にフィラデルフィアカラーが除去された。17日目に独歩自立にて退院となった。退院後に疼痛と可動域制限が増悪したため、19日目の外来受診時より週2~3回の理学療法が開始された。初回評価時、頚部の関節可動域は、屈曲20°、伸展25°、左側屈20°、右側屈10°、左回旋5°、右回旋10°であった。頚部痛は、各運動の最終域にて出現し、VAS 8程度であった。圧痛は、左第4/5および5/6頚椎椎間関節において著明であり、後頚部の各筋においても認められた。頭痛は、臥位から坐位・立位になると出現し、連続離床時間は1時間程度であった。その頭痛のために家事は10分程度で休憩が必要であった。背臥位であっても高い枕で頭痛が増悪し、後頚部筋の等尺性収縮や圧迫によっても再現可能であった。また、端坐位にて骨盤後傾・体幹屈曲位にすると増悪傾向にあった。受傷時に認められた左母指のしびれは消失しており、中枢神経障害を疑う所見も認められなかった。衝突・転倒後より疼痛が出現していたこと、各運動が著しい左頚部痛によって制限されていたこと、左4/5および5/6頚椎椎間関節に強い圧痛を認めたこと、後頚部の各筋にも圧痛と緊張を認めたこと、不動状態で3週間経過していたことから、頚部の運動時痛は、左4/5および5/6椎間関節の損傷・炎症、拘縮による関節内圧上昇、後頚部筋群の攣縮によって生じていると推察した。それに対して、頭部の重量を十分保持した状態での反復収縮による筋リラクセーションと伸張、椎間関節包のストレッチングを実施した。また、後頚部の各筋に圧痛と緊張を認めたこと、離床によって頭痛が出現すること、端坐位にて体幹屈曲位では頭痛が増悪すること、背臥位では頭痛が軽減すること、後頚部筋の等尺性収縮や圧迫にて増悪することから、頭痛は、椎間関節包の損傷にて後頚部筋の持続的な緊張が惹起され、関節・筋内圧の上昇によって生じていると推察した。それに対して、椎間関節への伸展方向へのストレスを軽減するための座位姿勢、就寝時の枕の高さの調整方法などの日常生活動作の指導を行った。理学療法開始後1週間で頭痛は消失した。頚部可動域および疼痛が改善傾向にあり、開始後3週間で仕事に復帰した。理学療法開始後10週間で左右回旋合計角度は、治療前後において10°の差を認め、屈曲・伸展合計角度、左右側屈合計角度は治療開始前後で変化がない状態となり、理学療法が終了となった。
本症例は、受傷から3週間で担当しており、損傷・炎症・筋攣縮に対する局所安静・リラクセーションが必要となるのか、短縮・癒着に対する伸張・滑走運動を主体とした運動療法を実施するのかの判断が容易ではなく、治療対象とする軟部組織についても特定するのが難しい。詳細な問診や検査にて情報・所見を得る必要があったが、不十分と感じていたため、症例提示に至った。そのため、すでに治療を終えた患者の振り返りとして、①本症例における病態推察の不明確さはなかったか? また、その推察はどのような所見を得ることで確認できるか? 、②「損傷」と「拘縮」の判断は適切であったか? 、③担当するとしたら、どのような運動療法・ADL指導を実施するか?の3点を検討事項とした。
フロアより、受傷機転や症状について問診を丁寧に行い、どのように倒れ、どのような力が加わり、どこの組織が痛みを出しているのかをもっと明確にした方が良かったのではないかとの意見が出された。関節と神経については、左母指にしびれが出現しており、C5/6椎間においてC6神経の伸張が加わった可能性がある。筋については、肩甲骨に付着する筋であれば肩甲骨の位置変化での疼痛の変化が生じ、頭部に付着する筋であれば頭部の位置変化での疼痛の変化が生じる。どの組織の条件を変化させることで疼痛が増悪・軽減するのかを確認することで治療対象とする組織を明確化できるとのことであった。頭痛についても、圧痛、姿勢変化による症状変化の確認することで原因を特定できる可能性があるとのご助言をいただいた。頭痛の原因になることがある大後頭神経を超音波画像診断装置にてプローべ・コンプレッションテストを行い、その部位の圧痛やTinel様徴候を認めるかどうか確認してみてもよいのではないかと助言していただいた。また、椎間関節内の腫れや腕神経叢の滑走障害を伴っている場合も超音波画像診断にて確認できることをご教示いただいた。運動療法については、痛みが強い場合は、頚部へのストレスを増大させる可能性がある胸椎、肩甲帯、骨盤など他関節から拘縮・筋力低下などの改善を図るのも1つの良い方法ではないかとの意見があった。枕の高さ調整時には、頭部の下だけでなく、肩甲帯が浮いた部分にもベッドとの隙間を埋めるようにタオルを敷いた方が良いとの意見が出された。フィラデルフィアカラー除去後に痛みを生じたのであれば、すぐに何も支えがない状態で過ごすのではなく、一時的にソフトカラーを装着して過ごしてみると痛みが軽減できた可能性があるとの見解が示された。最後に、国際疼痛学会の定義を確認し、その場の感覚刺激としての痛みだけを考えれば良いというのではなく、情動体験を通じた痛みの悪循環を断ち切ることが重要ではないかとご教示いただいた。
画像所見に乏しく、症状を引き起こす組織と病態を客観的に推察することが難しい場合であっても、問診、触診、条件変化での症状変化の確認などを丁寧に行うことが大切であると改めて確認することができた症例であった。特に病態を予測する上で問診は重要であり、上級指導者の意見にも挙がっていたように「どのように転びましたか?」の問いに対して、「わかりません」と回答された場合であっても、それ以上聞くのをやめてしまうのではなく、「ぶつかった後、どのような姿勢でしたか?」など聞き方を変え、患者が回答しやすいように、より具体的な内容の質問を投げかける工夫をしていきたいものである。

(校正者:岡西尚人)