269回整形外科リハビリテーション研究会報告

2020.1.18 於:中部リハビリテーション専門学校 6F
            


第一肋骨切除術の適否に悩んだ胸郭出口症候群(TOS)の1症例

症例は、15歳(中学3年生)の男性である。軟式野球部に所属しており、右投げの投手である。1年前、投球動作時に右上肢のしびれと疼痛が出現し投球が困難となったため、発症して2週後に当院を受診された。診断名は胸郭出口症候群であり、症状出現から3週後に週1回の運動療法が開始となった。初回評価時、問診にて洗髪動作、書字動作、投球時などの動作時にしびれや疼痛が出現するとのことであり、握力は右側が28kg(症状出現前:50kg))、左側が47kgであった。圧痛は斜角筋三角部、鎖骨上窩、小胸筋間隙、斜角筋、胸鎖乳突筋、小胸筋、肩甲挙筋、菱形筋に認め、前胸部tightness testは肩峰と床面との距離が20cmであった。Roos test、Moley testや下方牽引テスト時に右上肢への放散痛ならびに血流低下を認め、肩甲帯挙上位で下方牽引テストを行うと症状が軽減した。続いて、エコーを用いて斜角筋三角底辺距離(ISD)と腋窩動脈2nd partにおける血流速度(PSV)を測定すると、ISDは0mm、PSVは右肩外転外旋時ならびに挙上位において0cm/s(左側83cm/s)であった。そのため、本症例は、牽引症状と圧迫症状を有する胸郭出口症候群であると考えた。TOSは約8割が混合型であるとされ、肩甲胸郭関節の機能改善により症状が寛解する症例を多く経験するため、牽引症状の改善を優先した。運動療法としては、前胸部の柔軟性の改善や斜角筋の柔軟性の改善を図ると同時に、腕神経叢の滑走改善も行った。これにより、圧痛所見は全て消失し、下方牽引テストも陰性化となった。そのため、徐々に投球を再開し、運動療法開始から4ヶ月後には投手として完全復帰した。しかしながら、Roos testやMoley testが残存していたため、競技復帰後も週1回の運動療法は継続し、投球強度を漸増しつつ経過観察を行った。その後、学校の都合などで1ヶ月来院が出来ず、投球再開から約3ヶ月が経過した時点で、再び来院した際にはしびれと痛みが出現し投球困難となっていた。再度評価すると牽引症状はなく、起床時に握力低下と手指が蒼白になるとの訴えがあり、Roos testが10秒で、競技復帰以前より状態が増悪していた。圧痛は斜角筋三角部、鎖骨上窩、斜角筋、胸鎖乳突筋に認めた。安静時から手指の蒼白や筋力低下を認め、斜角筋や肩甲帯への運動療法を4ヶ月間行ったものの、状態に変化がなかったため、腕神経叢造影や血管造影3DCTによる腕神経叢ならびに血管の圧迫を確認したところ、肋鎖間隙部の狭小化はなく第一肋骨部において斜角筋との間で腕神経叢ならびに鎖骨下動脈が絞扼を受けていた。そのため、ドクターとの協議の結果、内視鏡アシスト下に第一肋骨切除術の施行となった。本手術は除圧術であるため術後2週より運動療法が開始となり初回評価時には術前に認めた神経ならびに血管症状は消失していた。現在、術後2ヶ月が経過しており投球が可能となっている
フロアから
急激に症状が再燃した際に、何らか変化が生じている可能性があるので、そこから足りない評価や増悪した原因を考える。 TOSの手術適応については、まだまだ判断基準が難しい、今後の課題である。

(校正者:福吉 正樹)




左肩関節脱臼骨折により自動挙上可動域の獲得に難渋している一症例

症例は70歳代女性である。屋外に出た際に転倒し受傷した。同日当院を救急受診され、左肩関節脱臼骨折、右橈骨遠位端骨折、両肋骨骨折と診断された。受傷1週5日目に右橈骨遠位端骨折に対しては骨接合術が施行された。左肩関節脱臼骨折は転位が軽度であったため保存療法が選択された。画像所見より肩関節前方脱臼と大結節の嵌入骨折を見認めることからNeer分類Ⅵの2-part骨折であった。CTより大結節inferior facet、middle facetに粉砕骨折を認めていた。X線の経過観察では骨吸収が生じ癒合していた。左肩関節脱臼に対しては2週間の三角巾とバストバンド固定、その後2週間の三角巾固定が行われた。受傷後2週より理学療法開始となった。主訴は自動挙上困難、他動挙上最終域での肩関節後方部痛であった。圧痛所見は三角筋後部繊維、棘上筋が、棘下筋、小円筋、上腕三頭筋長頭腱、大円筋に認めた。他動挙上時の疼痛は、棘下筋の圧痛・肩関節外転位内外旋・結帯にて再現できた。整形外科テストはSSp test、ISp test、lift off testが陽性であった。神経症状は認めなかった。可動域(右/左°)は自動挙上、他動挙上、であった。肩甲上腕関節の可動域が屈曲、外転、内転、1st外旋、2nd内旋、2nd外旋、3rd内旋であった。大結節が嵌入骨折していることに加えて、middle facetとinferior facetが粉砕していることから、肩関節内旋位挙上で受傷したと推察した。前方脱臼もしていることから、前方支持組織への過度な伸張ストレスを加えないように、上方支持組織の拘縮予防を行った。しかし、自動挙上可動域不良、他動可動域最終域での疼痛が残存した。検討項目は自動挙上可動域のゴール、他動挙上最終域の疼痛の解釈、さらに挙上可動域を獲得していくために必要な評価と治療であった。
大結節の位置の変化により腱板は機能しにくい状態なっていることが予測できる。Inferior facetとmiddle facetが粉砕いていることからも大結節に付着している組織は棘上筋しか機能できていないと考えられる。そのため、自動挙上可動域は現在挙上可能である100°が限界と考えるとご意見いただいた。他動挙上最終域での疼痛は腱板損傷が原因か拘縮が原因であるかの評価を行うために、エコーやMRIでの評価が必要であると助言をいただいた。疼痛出現部位か上腕外側皮神経、受傷機転から腋窩神経由来の疼痛が考えられるため、神経の評価もすべきであるとご指導頂いた。結帯高位がL4と大きく制限を認めており、前方脱臼していることからも後方支持組織が損傷していることが考えられる。棘下筋-三角筋後部線維、棘下筋-棘下筋下脂肪体、小円筋-後方関節唇等の後方の拘縮が除去により結帯の改善が得られる。後下方組織は挙上の制限因子にもなるため、拘縮改善に伴い挙上可動域も獲得できるのではないか。しかし、受傷後9週目のX線像では骨頭が扁平化してきており、OA changeが進行していることからも大きく改善は見込めないのではないかと助言をいただいた。
軟部組織のみにとらわれがちであるが、肩甲骨関節窩に対して上腕骨がどの位置にあるのか、骨折の状態、関節窩や上腕骨頭の状態を把握すること、そこから予後予測することの重要性を再認識した一症例であった

(校正者:小野 志操)